<発表のポイント>
・光合成の光エネルギーの転換反応は「チラコイド膜[1]」で起こります。今回、チラコイド膜を作るために必須である「VIPP1」と呼ばれるタンパク質に着目しました。
・VIPP1タンパク質が持つ特徴的なアミノ酸配列(Vc)は、極限環境に生息する古細菌などの祖先タンパク質PspAにも出現しており、このVc配列により、チラコイド膜だけでない膜へのストレス耐性を生命の進化において獲得した可能性が示唆されました。
・VIPP1とVcは「チラコイド膜を持たない」原始シアノバクテリアにも存在し、植物の葉緑体に導入するとチラコイド膜を作れる作用をすることが分かりました。

今回の知見により、VIPP1を用いてチラコイド膜を強化し、植物の環境耐性や光合成効率を高める技術への貢献が期待されます。


◆概 要
 光合成は、植物が太陽光を利用して二酸化炭素を有機物に変換し、その過程で酸素を放出する生命現象であり、地球の大気組成や生態系の維持に欠かせない役割を果たしています。この反応の場となるチラコイド膜は、光合成装置が集積する細胞内の膜構造であり、光エネルギーを効率的に変換するために極めて重要です。その形成や維持には専用のタンパク質であるVIPP1が関与していますが、進化的起源は十分に解明されていませんでした。

 国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:那須保友)学術研究院先鋭研究領域(資源植物科学研究所)の坂本亘教授らは、原始的なシアノバクテリアである「グレオバクター(Gloeobacter violaceus)」が、チラコイド膜がないにも関わらずVIPP1タンパク質を持っていることに着目しました。

 グレオバクターのVIPP1は、高等植物においてもチラコイド膜の形成を可能にすることが分かりましたが、このチラコイド膜形成能には、末端に付加された「Vc」と呼ばれる領域が不可欠であることが明らかになりました。また、VcはVIPP1に特徴的な配列と考えられていましたが、詳細な解析から、乾燥や高温といった極限環境に生息する古細菌などの祖先型のタンパク質にも付加されていること分かり、光合成に限らない膜保護機構として、進化的に獲得されてきたことが示されました。

 これらの成果は、光合成膜の進化において、膜の維持と保護が先行して確立された可能性を示唆しており、将来的には、チラコイド膜の強化による植物の環境耐性や光合成効率の向上を目指した応用が期待されます。

 この研究成果は2025年8月18日  、米国の国際科学誌「プラントフィジオロジー(Plant Physiology)」のResearch Reportとして掲載されました。


◆論文情報
 論 文 名:VESICLE-INDUCING PROTEIN IN PLASTIDS 1 from thylakoid-less Gloeobacter promotes thylakoid formation in Arabidopsis
 掲 載 紙:Plant Physiology, 2025年 8月 18日(アメリカ東部時間)
 著  者:Lijuan Ma, Baozhu Dong, Meiyan Sun, Riqin Hao, Xinxia Wang, Haoyang Yu, Chenxu Han, Alex Muhire, Sarah Wanjiru Gachie, Di Li, Wataru Sakamoto*, Lingang Zhang*
(*責任著者)
 D O I:https://doi.org/10.1093/plphys/kiaf359


◆研究資金
 本研究は、科学研究費(学術変革領域研究(A)および基盤研究B)の研究助成により行われました。


◆詳しい研究内容について
 光合成の足場「チラコイド膜」の再構築に新知見~原始シアノバクテリアが持つチラコイド膜を作れる能力を証明~
 https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r7/press20250828-1.pdf


◆参 考
・岡山大学資源植物科学研究所(IPSR)
 https://www.rib.okayama-u.ac.jp/
・岡山大学資源植物科学研究所 光環境適応研究グループ
 https://www.rib.okayama-u.ac.jp/saka/
・【岡山大学】岡山大学資源植物科学研究所を「岡山大学高等先鋭研究院」に認定 ~我が国初で岡山大学独自の"世界と伍す研究・イノベーションの卓越と厚みを育成するシステム"を始動~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001796.000072793.html
・【岡山大学】岡山大学4研究所が「高等先鋭研究院」として始動 ~組織としての「箱」ではなく、卓越、イノベーション創出、流動、育成を兼ね揃えた「システム」として運用を開始~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001835.000072793.html


◆参考情報
・【岡山大学】光合成反応における光損傷と修復のメカニズム解明 ~傷ついたタンパク質を見つけて分解するしくみを明らかに~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001838.000072793.html
・【岡山大学】穀物の「芒(ぼう)」ができなくなるしくみの解明
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000694.000072793.html
・【岡山大学】生命の源、光合成の足場づくり ~「足場=チラコイド膜」を守り光合成を高めるしくみを明らかに~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000144.000072793.html
・【岡山大学】作物でまれに起こる有機リン系殺虫剤の薬害に関する遺伝子の発見 〜バイオマス作物ソルガム(たかきび)を用いた研究から〜
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000291.000072793.html
・【岡山大学】資源植物科学研究所の坂本亘教授が米国植物生物学会ASPBの在外終身名誉会員賞を受賞
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001700.000072793.html
・【岡山大学】生命の源、光合成の足場を保つしくみの解明~「足場=チラコイド膜」を守り植物を高温に強くする~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003049.000072793.html


◆本件お問い合わせ先
 岡山大学 学術研究院 先鋭研究領域(岡山大学資源植物科学研究所)光環境適応研究グループ 教授 坂本 亘
 〒710-0046 岡山県倉敷市中央2-20-1
 TEL:
 https://www.rib.okayama-u.ac.jp/saka/
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1430.html

国立大学法人岡山大学は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を支援しています。また、政府の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞しています。地域中核・特色ある研究大学として共育共創を進める岡山大学にご期待ください

岡山大学 文部科学省「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に採択~地域と地球の未来を共創し、世界の革新の中核となる研究大学:岡山大学の実現を加速とともに世界に誇れる我が国の研究大学の山脈を築く~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001935.000072793.html