大阪で発足した演劇ユニット・ロンドン会議の第1回公演『私の中の少し幸せではない部分』(2023.06.06-09、@聖天通劇場)の稽古が佳境を迎えつつある6月某日。大阪市内の稽古場で稽古を終えた、ロンドン会議の中心人物、淀川フーヨーハイ氏、高瀬和彦氏に話を聞いた。二人の中年男は、何故このタイミングで新しい団体を立ち上げ、小さな劇場で公演を打とうとしているのか?

聞き手:山村啓介(707山村啓介事務所)
取材日:2023年6月8日(木)  

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■よろしくお願いします。
まず、二人の出会いについて教えていただけますか?

淀川
高瀬君は、僕が昔いた職場(広告の会社)の後輩なんです。

高瀬
会社の中で淀川さんは雲の上の存在で、年齢的にも大先輩で。僕が30歳くらいの時に淀川さんの部署に異動し、お話しするようになりました。その前から満劇(※①)のお芝居は観に行ってました。

■満劇の印象はどんなでした?

高瀬
当時僕は、虚構性、エンターテインメント性の強い芝居をやっていたので、初めて満劇さんを観た時はなんというか、自分たちがやっているのとは全然違う演劇だな、とは思いました。自分らみたいにミーハーに動き回らない、落ち着いた大人の会話劇というか。

淀川
動きが下手なんです。ほとんど座ったきり。一度座ったら立ち上がらない芝居。

高瀬
そういうの少し憧れました。

■淀川さんはババロワーズ(※②)をどんなふうに見てましたか?

淀川
・・・ニューウェーブだなと(笑)。でもとにかく、役者・高瀬和彦が、巧くて好きだったんです。

高瀬
(いやいや)

■記録を紐解くと、2006年の満劇公演『それは秘密です』(@アートギャラリーフジハラ)に、初めて高瀬さんが客演として出ていますが、これは呼んだのは淀川さん?

淀川
そうですね。それまで出てもらえるとか考えたことなかったんですが、当時我々のいた会社が堂島にあって、近くの地下街(※③)を歩いている時に高瀬君にばったり出会って、その時ふとひらめいたんです。で、「ちょっと出てくれへん」と言ったら、「ハァ」と言われた記憶があります。

高瀬
そうでしたっけ。

淀川
で、出てもらえることになったんで、彼に当てて脚本を考えました。たしか女装してもらった(※④ 写真あり)。

■初めて大先輩の淀川さんから声を掛けられたとき、どう思いました?

高瀬
それが全然覚えてないんです。ただ会社の中のヒエラルキー的に絶対逆らえない、っていうか・・・

淀川
あかん、パワハラやんか。

■その後、3、4年おきに高瀬さんを呼んでるんですが。

淀川
困ったときに呼んでるんです。

■高瀬さん的には客演として呼ばれてうれしい?迷惑?

高瀬
うれしいです。自分の演技だけ考えてればいいので、自分の劇団やる時より負担が軽くて。

■普段はやはり座長の重圧が?

高瀬
・・・うーん単純に作業が多くて。

■淀川さん、今回の企画の立ち上げの理由を教えてください。

淀川
去年も久しぶりにうちに出てもらったんです。その公演の当日パンフレットに、メンバーの一言コメントを書くところがあったんですが(※⑤)、高瀬君が「芝居をやめようと思ってる」と書いていて(写真あり)、真意を聞いたら、本気みたいだったんで、これはよくないなと思って。こんな才能のある人がやめたらもったいない!自分の劇団を維持し引っ張っていくのが大変だからじゃないか、他のことを考えず中身を面白くすることだけ考えられる場があれば続けたくなるんじゃないか、と思って、そういう別の場を作ったらどうか、という話をしたんです。その話をしたのが堂島の《ロンドンティールーム》で。

■なるほど。高瀬さん、どうして当日パンフにそんなことを書いたんですか?

高瀬
コロナ禍もあって2年くらいお芝居から遠ざかっていた時に、満劇さんに声をかけてもらったんですが、その間に会社も辞めていたし、皆さんに会いたくなって参加しました。でもほんとにコロナの間色々考えて、年齢も年齢だし、結果もあまり出てないし、もうやめようかな、と。

■面白いことを書く欄なのに、私もびっくりしました。

高瀬
正直、ちょっとびっくりさせたいという思いもあったけど、本音でもありました。自分がこんなにフワフワした状態で客演に呼ばれるのも申し訳ないと思ってましたし。

■で、今年になって淀川さんから声を掛けられてどうでした?

高瀬
あ、それは…

淀川
最初ちょっと難色を示されました、ほんまですか?みたいな感じで。

高瀬
どこからも声がかからなければこのままフェイドアウトかな、と思っていたので、ずっとお世話になっていた淀川さんから、「やめるなんて云わんと一緒にやろう」と声をかけてもらったのは正直うれしかったです。

■で、その場でOKした?

高瀬
いや・・・

淀川
二回話しました。「やろう」ってなったのは第二回のロンドン会議でです。

高瀬
あの満劇の当日パンフのコメントを書いたあと、「芝居やめたらいかん」と言うてくれはったんは淀川さんだけやったんです。もちろん何人かからリアクションはもらいましたけど、「ほんまなん?」くらい。「やめるな」とはっきり言ってくれたのは淀川さんだけで、夢にも思ってなくて有難くて。

■今回の公演は4本立てのオムニバス劇です。3本を淀川さんが作・演出、1本を高瀬さんが作・演出、主演は全部高瀬さん、という構成です。淀川さんはこの中で高瀬和彦のどんなところを見せたいんですか?

淀川
高瀬君は基本巧いので、何を要求してもちゃんと面白く見せてくれる。どこからでも笑いは生み出せる。なので、思い切って設定はシリアスに振ってみようかと。なので、僕が書いたのは3つとも、話自体は結構暗いんです(※⑥)。高瀬君は、困っている人、うまくいってない人、・・・が似合う。そもそも演劇っていうのは、何らかの障害とか葛藤を描くので、主人公はそういうのが似合う人、っていうのが大事なんですね。そういう意味では高瀬君は主人公向きだとずっと思っていたんだけど、自分の劇団では脇に回ってしまうので、一度、彼を主役にしてみたかった。

■なるほど。どうですか高瀬さん、今の話。

高瀬
主役とかやりたいと思ったことがないんです。自分には「笑わせたい」という初期衝動があって、コメディが好きなんですけど、シリアスを見てみたいと云われると意外です。

淀川
高瀬君は笑いはどこからでも生み出せるので、芝居の構造としては喜劇にする必要はないのよ。

高瀬
淀川さんだけなんですよ、そんなこというてくれるの…

淀川
まあちょっと大袈裟に言ってるけど。

高瀬
そこまで云われたら頑張るしかない、なんとか期待に応えたい、というだけです。

■高瀬さんが書いた1本、『演劇なんて大嫌い』(※⑦)には、自分の思いが出ているんでしょうか?

高瀬
100%ではないけど、8割がたは。

■あの中に、主人公が初めて演劇が好きになったときのことが描かれていますが、あれは実話ですか?

高瀬
ほぼそうです。新入社員の時に隣の席で僕の教育係だった先輩が劇団をやっていて、そこに呼ばれて稽古場に入り浸るようになり・・・

淀川
それまではやったことなかったん?

高瀬
そうですね、学生時代のお楽しみ会みたいなのを除けば、ほぼ初めての演劇体験でした。

■稽古は今どんな感じですか?

淀川
だんだん完成に近づいています。達者で勘がいい役者さんに集まってもらってて(※⑧)、どんどんよくなっていくのを感じて、すごく楽しいです。

高瀬
僕はちょっと後悔してます。4本とも主役で出るという、なんと畏れ多いことしてるかと。脇でちょっと目立つことに喜びを感じる方で。誰がこんなオッサンの主役4本立て観たいねん・・・

■それ言っちゃだめでしょ。

高瀬
でも50代のオジサンの主役4本立てはなかなかないと。

■イッセー尾形さんは70いくつで、5本も6本も一人芝居しますよ。

高瀬
そんな方と比べられても!でも初めての体験なので、どんなふうに観ていただけるのか楽しみではあります。
淀川 そう、どんな観られ方をするのか、興味ありますね。

■最後に、お読みいただいた方に、メッセージをお願いします。

淀川
劇場に来るってやはり大変なことなので、来てよかったなと思ってもらいたいです!

高瀬
小さな劇場で近い距離で観ていただくので、飛んだり跳ねたりのお芝居じゃないですけど、大人の繊細なお芝居を観てもらえたらな、肌で感じてもらえたらな、と思います!

■今、まだ演劇はキライですか?

高瀬
・・・ううう手放しで好きとは・・・

淀川あかんがな。

高瀬
好きな人は何が好きなのか訊いてみたいです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
最後まで謙虚、というか後ろ向きにも思える高瀬和彦氏であった。しかし、おそらくは彼のこの佇まいこそが、舞台上で虚実皮膜の味わいとなって淀川フーヨーハイ氏を心酔させる部分のだろう。
ともかく、二人を知らない人にとっても、面白い作品であることは間違いなさそうだ。どこにもない、不思議な味わいの大人のコメディ。しかも観やすい4本立てのオムニバス。商店街の一角の本当に小さな劇場なので、興味を持たれた方は急ぎ予約をお勧めする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
《※注》

※①
淀川が所属する劇団、「満員劇場御礼座」(満劇)。70年代に誕生した京大の学生劇団が原点で、今年も12月に公演予定。

※②
1998年に高瀬が結成した劇団、「ババロワーズ」。ポップでナンセンス、かつ毒のあるコメディを得意とする。

※③ 
ドージマ地下センター。大阪キタのターミナル・梅田と堂島のビジネス街をつなぐ地下街。

※④ 
『続・メールフレンド』という短編劇。当時トレンドだった《メールフレンド》という文化を戯画化したコメディ。

※⑤ 
満員劇場御礼座公演『これ言っていいのかな』(2022年9月  @道頓堀ZAZA)。当日パンフでは、タイトルにちなんで、各メンバーが「言ってしまいたいこと」を披露した。

※⑥ 
高瀬が演じるのは、妻の心の声が聞こえるようになってしまった男(『君の声が聞こえる』)、真面目なのにツイてないハローワークの職員(『山田さんの話』)…など。

※⑦ 
公演直前の劇団から男優が逃亡。連れ戻そうとやってきた座長たちに、彼は、長年の演劇への疑問を語り始める。

※⑧ 
満劇から桂雲吞・緑ファンタ、ババロワーズからベベ、そして、関西の小劇場で個性が光る役者、ゴン駄々吉と池下敦子が参加。怪優・淀川フーヨーハイも出演者に名を連ねる。



■プロフィール
淀川フーヨーハイ(1956~)
関西を拠点に活動する老舗劇団、『満員劇場御礼座』において、脚本・演出そして出演を担当している。本業はCMプランナー・コピーライター。本名を聞けば広告の世界では知らない人はいないという有名クリエイターである。劇団においては、不思議な味わいの短編コメディの創作を得意とし、満劇で過去に書いた作品を、草彅剛さん主演で新たに演出し、大好評を博したという実績も持つ(初演2019年、再演2021年)。

高瀬和彦(1967~)
1998年、『ババロワーズ』を旗揚げ。以来、淀川と同じく、広告の世界で働く傍ら、劇団主宰として、脚本・演出・出演を担当している。ポップでナンセンス、しかし油断ならない毒を含んだスラップスティック・コメディを中心に、短編から長編まで多くの作品を創り続けてきた。またその演技には、他の誰にも替え難い独特の味わいがあり、請われて外部団体への出演も数多い。


《公演概要》

■タイトル   
ロンドン会議 第1回公演『私の中の少し幸せではない部分』

■公演日時
2023年7月   
6日(木) 19:00
7日(金) 14:00/19:00
8日(土) 13:00/17:00
9日(日) 13:00

■会場
聖天通劇場(大阪市福島区福島7丁目7-12)    
https://shoutendori-theater.com
      
■料金
前売3,500円/当日4,000円

■予約    
ロンドン会議HPにて   
https://londonmeeting.hp.peraichi.com/
 
■作/演出 
淀川フーヨーハイ・高瀬和彦

■出演
高瀬和彦(ババロワーズ)
桂雲吞(満員劇場御礼座)
緑ファンタ(満員劇場御礼座)
ゴン駄々吉(三俣婦人会)
池下敦子
ベベ(ババロワーズ)
淀川フーヨーハイ(満員劇場御礼座)


■演目
第1話『父、帰ったの?』作/演出:淀川フーヨーハイ
男が小さいころに出て行った父らしき人がなぜかここにいる。さて、父は帰ったのか。

第2話『君の声が聞こえる』作/演出:淀川フーヨーハイ
その人の心の声が聞こえるようになったらうれしいですか。ちょっとイヤかもしれません。

第3話『演劇なんて大嫌い』 作/演出:高瀬和彦     
本番前に舞台から逃げ出した俳優。連れ戻そうとすると、長年の演劇への疑問を語り始める。

第4話『山田さんの話』作/演出:淀川フーヨーハイ
ハローワークの職員の山田さんはとても真面目な人なのに、どうもツイてない。
町が水害に襲われた日、避難したビルの屋上で彼は幸せになれるのでしょうか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

*この公演に関するお問い合わせは   
    
山村啓介(707山村啓介事務所)まで


よろしくお願い申し上げます。